2026/09/07
経理の「自社完結」と「外注」の境界線。失敗しない…
コラム

経理業務のリスク管理において、重要だと分かっていてもなかなか進まないのが「脱・属人化」です。長年、特定の担当者が支えてきた現場ほど、「あの人に聞かないと分からない」という状況が生まれやすいものです。
しかし、近年普及しているデジタルツールを適切に導入することで、ベテランの経験に頼りすぎず、誰でも高い精度で業務を回せるようになった事例が数多くあります。
税理士事務所の視点から見た、デジタル化による属人化解消の具体的な成功事例とそのポイントを整理します。
ある中小企業では、毎月の経費精算や通帳の転記をすべて手入力のエクセルで行っていました。仕訳のルールは担当者の頭の中にしかなく、他の社員が内容を確認しようとしても、複雑な関数や独自のメモを解読する必要がある状態でした。
この企業が取り組んだのは、以下の3つのステップによるデジタル化です。
① インボイス読み取りによる「判断の自動化」
これまでは担当者が「この領収書はインボイス対応か」「税率はいくつか」を一枚ずつ目視で判断していました。
これをAIスキャン機能付きの経理ソフトに変更したことで、システムが自動で判別。担当者の「記憶」や「慣れ」に頼っていた判断工程がデジタルに置き換わり、誰がスキャンしても同じ結果が出るようになりました。
② 銀行API連携による「入力作業の減少」
通帳を見ながら手入力していた作業を、銀行口座との直接連携に切り替えました。
一度「この振込先は買掛金」といったルールをシステムに学習させれば、次からは自動で仕訳候補が表示されます。これにより、帳簿付けのプロセスが「ゼロからの入力」から「システムが出した答えの確認」へと変わり、属人化の要因だった「入力のクセ」が解消されました。
③ 共有ストレージによる「情報のオープン化」
紙のファイルで保管していた請求書や領収書を、すべてクラウド上の共有ストレージに集約しました。
「あの資料はどこにある?」という問い合わせに対し、担当者が席を立ってファイルを探す必要がなくなり、許可された人間なら誰でも検索して確認できる状態になりました。情報の置き場所が共有されるだけで、業務のブラックボックス化は劇的に改善します。
この企業の最大の成果は、単なる作業時間の短縮だけではありませんでした。
業務がシステム上で可視化されたことで、万が一担当者が不在の際も、税理士事務所側から進捗を確認してフォローすることが可能になりました。また、新しく入った社員への引き継ぎも、「システムの操作説明」が中心となるため、以前の数分の一の時間で完了するようになりました。
デジタル化による属人化の解消は、決して「人を機械に置き換えること」ではありません。
「人にしかできない判断」と「デジタルに任せられる作業」を整理し、情報をオープンにすることで、組織全体の安心感を高める取り組みです。
「特定の誰か」の頑張りに支えられている経理から、システムを軸にした「チーム」で回せる経理へ。まずは、一つの銀行連携や一つのスキャンツールから、小さな一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

K&P税理士法人
山口 貴澄
経理業務改善、経理体制構築、クラウドツール導入支援
大学卒業後、建築業界、学習塾の教室長などを経た後、ベンチャー企業の経理業務に従事。
その後、中小企業の経理業務の効率化に貢献したいとの思いから、会計事務所業界に転身し、2020年にK&P税理士法人へ入社。
前職で多業種から経理業務改善の相談に対応した経験から、クラウド・ITツールを活用した経理フローを構築し、経理業務の負担を圧倒的に軽減する提案に定評あり。
特に、マネーフォワードのクラウド会計の導入支援を得意とするほか、初級シスアド(現ITパスポート)、Excel表計算処理技能認定試験1級も保有。
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